岩井克人『二十一世紀の資本主義論』講師解答例

リベラル読解研究

岩井克人『二十一世紀の資本主義論』について

結局のところ、貨幣とは何?資本主義とは?この本は、アダム・スミス『国富論』(1776年、第4編第2章)の「見えざる手(Invisible Hand)」の引用から始まります。複雑怪奇な経済現象を単純化して説明しようとする経済学を説明しようとする理論経済学を説明しようとする著者に、学べるところがあるのではないでしょうか。「市民」として生きるのに必要なヒントが隠されているように思います。

社会学では「社会において○○はどのような役割を果たし機能しているか」という考え方をするので、絶え間なく動いて隅々まで流通することで必要不可欠の要素を送り届けている点で貨幣は血液に似ています。つまり、社会全体:貨幣=肉体:血液と定式化できそうです。

書籍と授業での議論を踏まえて21世紀の資本主義について意見を出し合いました。講師解答例は次のとおりです。

講師解答例

差異が利潤を生むという筆者の考え方は、私たちの生活に照らして考えるとわかりやすい。例えば、私の使っているiPhoneや任天堂DSで考えてみよう。アップルや任天堂は他社製品との間に「差異」を生むことで、市場を大きく拡げた。わずかな差異が人びとのライフスタイルに大きな影響を与え、経済社会の構図をすっかり塗り替えてしまうことは珍しくない。iPhoneが今日ほどシェアを拡大できた理由の一つとして、そのデザイン性が挙げられるだろう。試しに日本のメーカーの携帯端末と二つ並べて見比べてみるとよい。するとそのスタイリッシュなたたずまいに気づくことができる。日本のメーカーは機能を充実させる傾向が強く、その点においては既に高水準である。しかし、人びとが日常使う携帯端末はその機能性だけではなく、日々の暮らしの中で傍に置いておきたいものでなければならず、そのためには商品の購入段階でデザイン性も重要な要素になってくる。ちなみに、iPhone5Sのキャッチコピーは「先へ行くことは、美しいこと。」である。

筆者の言うとおり、貨幣が貨幣としてあり続けるには、貨幣が商品世界の媒介物として未来にわたって流通し続けるという期待に支えられていなくてはいけない。その意味で、貨幣はいわば経済社会の血のようなものであり、停滞は許されない。貨幣が流通しなければ、貨幣はその媒介物としての役割を果たさず、経済社会を混乱させてしまう。最近ではイノベーション(技術革新)という言葉を耳にすることが多くなった。経済社会の血として貨幣が循環するためには、イノベーションによる新たな差異の創出が不可欠だ。経済活動においてはイノベーションこそが命であり、商品開発側は新商品がおいしそうな「ニンジン」に見えるように消費者の鼻先に示してやらなければならない。例えば、アメリカの映画製作会社ピクサー・アニメーション・スタジオは、新作に登場するキャラクターのしわの一本一本を前作よりもリアルに表現している。それによってキャラクターの表情は一段と豊かになり、作品全体の面白さが増した。小田急電鉄は多摩川に近い高架下のデッドスペースに商機を見出して、アウトドア形式のフィットネスクラブを開業し、河川敷を使う人たちを利用客として取り込んでいる。以上のようにイノベーションの形は多種多様である。

二十一世紀の資本主義社会においては、あっと驚くアイデアに金が払われ、売り手側に儲けが出て、設備投資や新たなイノベーションにつながっていくというのが理想形だと思う。その意味で、昨今経済が上向く中で議論されている「賃金上昇が先か、物価上昇が先か」という話などについて私なりに考えてみると、その前提として面白いアイデアが次から次へと送りだされる世の中であってほしいと思う。

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