リベラル通信 2021年 春号

2021年度 大学入学共通テスト 新傾向問題と取り組み

今回は本年度から新たに実施された大学入学共通テストの新傾向問題を紹介していきます。

【第一日程】

試行調査(第二問~第五問)を踏まえ、第一問では実用的文章、第二問では韻文およびエッセイの出題が予想されていましたが、それらの出題はありませんでした。また、センター試験でも見られた先生や生徒同士の対話による設問はありませんでした。

第一問(現代文)では、問五で設問の文章を読んだ生徒が作成した「ノート」が資料として提示されています。

また、出典の中で引用されていた小説について生徒が考察を加えるといった場面想定も見られ、文章を書く活動を意識しながら複数の資料を関連付ける設問となっていました。

第二問(現代文)の問六では、本文が発表された当時の批評文と比較して評者と異なる解釈を選択するという、文章を多角的な視点から読む出題が見られました。

第三問(古文)の問一、問二については、センター試験でも出題されてきた形式の問題でしたが、語彙や文法の辞書的な知識だけでなく文脈に沿った解釈を推測する力が求められました。

さらに問五では本文中の和歌贈答を他作品の表現と比較させる設問も見られました。なお、和歌が本文中に四首、問五の中に一首、計五首あり、和歌の鑑賞力が問われていました。

第四問(漢文)は、去年に引き続き漢詩が出題されました。また、問三、問六では試行調査同様、複数の資料を踏まえた理解が問われていました。

【第二日程】

共通テスト試行調査の設問形式を踏まえた問題も見られたものの部分的であり、全体としてはセンター試験に類似した形式でした。

第一問、第二問(現代文)では、それぞれ問六で、生徒が意見を発表している場面や登場人物の描かれ方について生徒同士が話し合う場面を想定した設問が出題されました。実際の言語活動を意識した設問と言えますが、センター試験でも見られた形式です。

第三問(古文)は、傍線が付されていない設問が多く、本文を広く読む必要がありました。問五は「月」の描写に注目し、和歌の解釈や表現効果を多角的に問う問題でした。

第四問(漢文)では、問三の句法の知識が必須となる問題や正解を二つ選ぶ問題や、問七の同じ故事を踏まえる他の文献を引用し、本文との関係性を問う設問など、第一日程同様に試行調査の要素が盛り込まれていました。

【共通テストに向けた今後の取り組み】

共通テスト試行調査を意識した設問も見られましたが、従来のセンター試験を踏襲した設問も少なくありませんでした。しかし、今後も複数の資料を多角的に解釈したり、文章から得られた情報を適切に把握したりする力が求められると考えられます。どのような形式で出題されても対応できるよう、センター試験の過去問や試行調査なども使って練習を積み重ねておきましょう。

また、漢字や語彙、古文単語、漢文句形などの知識事項についても引き続き出題が予想されます。特に、古典の知識は内容理解の基礎ともなるので、早い時期から固めておきましょう。

リベラル読解論述研究 書籍紹介

中学生の使用書籍紹介

中3 …… 春期『犠牲のシステム福島・沖縄』高橋哲哉

日本社会において可視化された「犠牲のシステム」を浮き彫りにして問題提起する本です。犠牲とは自分の意志とは無関係に大きな被害を受けることです。つまり、犠牲のシステムとは、そういった犠牲が発生することを前提として作動している日本社会のシステムを指します。

では、このシステムの具体例とはなんでしょうか。それは、題名にある「福島」「沖縄」という二つの県に示されています。このうち「福島」とは福島第一原子力発電所事故のことを指し、「沖縄」とは普天間基地の移設問題を指しています。

この二つの問題には、共通点がある、と著者は述べています。原子力発電所も基地も、設立時は戦後日本社会の成立のために重要な施設であることが強調されてきました。しかしその時に同時に発生しうる大きなリスク(犠牲)は語られず、事故や問題が起こった時の責任は誰に帰するべきか、という重大な論点は曖昧なままにされてしまいました。本書では原発事故と基地問題を詳しく解説したうえで、このシステムの犠牲になっているのはどのような存在か、そもそも日本の社会において「犠牲のシステム」が成立しているのはどのような論理によるものか、ということを分析し、危うさや改善点について論じています。本書を読むと、こうした犠牲の上に成り立っているシステムは、紹介された事故や問題だけでなく、日本社会のあらゆる場面で見られることがわかります。著者の視点を参考に、このシステムの危うさと改善点について考えてみましょう。

高校生の使用書籍紹介

4月期『日本語練習帳』大野晋

本書は、日本語の文章をよく読めるようになり、また、自分でもよく書けるようになるための方法を指南するための本です。といっても、ただ淡々と文章をうまく書く技術を紹介しているわけではありません。それは本書が、日本語の文法を分析し、その仕組みを知ることで結果的に正しい日本語を学ぶことができる、という趣旨の内容だからです。

リベラル読解論述研究のカリキュラムは、課題書籍を読むだけでなく、自分の意見を述べる時間が授業に必ず組み込まれています。自分で主張や全体の構成を考えて文章を書く経験は、記述問題や小論文に取り組む際にも必ず役立っていきます。しかし、漫然と意見文を書くことを繰り返すだけでは、試験で通用するレベルの文章はいつまでも書けるようになりません。わかりづらい表現や文法的な誤り、語彙力の貧しい表現が散見される答案は採点者の印象を悪くするだけでなく、肝心の内容が伝わりにくくなる原因にもなります。そうした文章を書かないようにするためには、常に正しい日本語を意識することが必要となってくるのです。

本書では各章に設けられた練習問題を通して、日本語の基礎を学びます。単語の意味の微妙な使い分けや文法のルール、文章の縮約や要約を行う方法、敬語の基本など、内容は多岐にわたりますが、日常生活で会話をするときにはほとんど意識する機会のない知識も見られるため、最初はとまどうこともあるかもしれません。しかし、練習問題を何度も解きながら読み返しているうちに、少しずつ日本語の知識が身についていきます。すると、日本語として不自然な表現や課題にふさわしい記述について、敏感になり、記述問題や小論文の答案を作成するなかで、見直しを行う習慣がつくことでしょう。日本語の論述を極めたい方に特に読んでもらいたい一冊です。

今年度東大入試の国語で漱石の文章が出題されました

「子規の画」全文が文科第四問で出題されました。リベラル読解論述研究の授業では、過去に漱石の文章を何度か扱ってきました。漱石の文章をこれまでしっかり読んできた人には今回出題された文章が読みやすく感じられたでしょう。

★Y-SAPIXではこれまで次のものを読んできました★

  • 『漱石文明論集』
  • 『夢十夜』
  • 『行人』
  • 『私の個人主義』

今後も生徒のためになる本を選定していきます。

※次回は5・6月号です。

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