リベラル通信 2020年秋号

大学入学共通テスト 「国語」の対策について

今回は、2021年度よりセンター試験にかわって実施される大学入学共通テストの国語の傾向と対策について考えていきましょう。

昨年来ニュースで取り沙汰されることも多かったのでご存知の方もいると思いますが、当初導入が検討されていた記述式問題は2021年度においては出題が見送られることが決まっています。そのため、共通テストの国語は現代文2題、古文1題、漢文1題の大問構成で出題され、試験時間は80分と、大枠ではセンター試験と同じ形式で実施されることになりました。大問毎の配点にも変化はありません。

しかし、大学入試センターが公表する共通テストの国語の問題作成方針には、現代文として「実用的な文章」も出題されること、また「言語活動の過程を重視する」ことや「異なる種類や分野の文章などを組み合わせた、複数の題材による問題」が検討されること等といった、今までのセンター試験ではあまり見られなかった出題の特徴が示されています。これらが実際の問題にどのように反映されうるのか、過去2回行われた共通テスト試行調査(出題見送りとなった記述式の大問1を除く)をもとに見ていきましょう。

大問2は現代文のうち論理的文章からの出題となりました。これはセンター試験の評論に対応するものになりますが、第2回試行調査では著作権法の条文という「実用的な文章」が、本文や資料との組み合わせで出題されました。また、2回とも図表が本文とあわせていくつか示され、「複数の題材による問題」も意識されていたといえます。これらの実用的文章や図表については本文に書いてあることをもとに意味や内容を理解し、必要な情報のみ素早く抜き出すことが重要になるでしょう。その他の特徴としては、2回とも早い段階で本文全体を踏まえた出題がされたことが挙げられます。今までのセンター試験では本文の冒頭から順番に出題され、本文を最後まで読んでいなくても傍線部付近を見れば解答出来る問題も多くありましたが、共通テストでは解答に入る前に本文全体を通読し主旨や要点をつかむ必要性がかなり高くなるといえます。また、第1回試行調査では本文の内容について実生活に即した発展的な考察を問う出題もされ、日頃の問題意識の高さも試されていました。

大問3は現代文のうち文学的文章から出題されました。これはセンター試験の小説にあたるものになりますが、第2回試行調査では同じ作者の詩とエッセイという、センター試験には見られなかったジャンルの文章が出されました。これらに関しては、一読しただけでは内容が分かりにくい比喩表現や抽象表現の意味するものをいかにして明らかにするかがカギになるでしょう。第1回試行調査では同じ物語を異なる登場人物の視点から描いた2つの文章が出題されており、2回を通じて「複数の題材による問題」がかなり意識されていました。各々の文章の視点や内容の共通点や相違点に注目し、内容理解につなげることが重要になると考えられます。また、詩以外にも俳句や短歌などが出題される可能性もあり、様々なジャンルの文章の鑑賞法をおさえておくことが大切になります。

大問4は古文からの出題となりました。第1回試行調査では『源氏物語』の同じ一節について異なる人物が整えた2パターンの文章と、整える際の逸話を記した文章、計3つのテキストが組み合わされて出題され、「複数の題材による問題」が意識されていました。表記の共通点に注目しながら内容のつながりを把握し、各文章の理解に役立てることが重要になるでしょう。第2回試行調査では本文に関わる授業中の会話からの出題がされましたが、これは「言語活動の過程を重視した」問題だといえます。最近のセンター試験でも似たような問題が出されているので、それを活用し問題の形式に慣れておく必要があります。

大問5は漢文から出題されました。第2回試行調査では同じ題材を異なる視点から描いた2つの文章(一方は現代語文)が出題され、ここでも「複数の題材による問題」が意識されていました。また、第1回試行調査では本文について生徒がまとめた発表資料、第2回試行調査では授業内での生徒の会話文からといった、「言語活動の過程を重視した」問題も出されていました。資料や会話文に書いてあることが本文のどの部分に対応するのかに注意しつつ読んでいくことが重要になるでしょう。第2回試行調査では故事成語の意味を解答させる問題も出されたので、漢文学史の基本的な知識をおさえておく必要もあります。

ここまで共通テストならではの出題の特徴とその対策について見てきましたが、「高校で学習した内容の確認」という方向性はセンター試験と同じであり、基礎基本の定着が大切になることに変わりはありません。まずは古文の単語や文法、漢文の句形等の基礎知識を確実におさえつつ、センター試験の過去問を十分に活用し本文を素早く正確に読解する力を身につけていくのが最善です。入試の近い高3生のみなさんは、過去問演習の際は時間配分もしっかり意識するようにしましょう。

また、現代文については実用文や韻文(詩、短歌、俳句など)を含む様々なジャンルの文章を読みこなす必要があります。まだ大学入試までかなり時間のある中学生のみなさんも、今のうちから多くのジャンルの文章に親しみ、読む際のポイントをつかんでおくと良いでしょう。

リベラル読解論述研究 書籍紹介

高校生の使用書籍紹介

10月期『自分で考える勇気 カント哲学入門』御子柴善之

イマヌエル=カントは18世紀最大の哲学者と名高い、思想史上重要な人物です。カントは死後も、フィヒテやシェリング、ヘーゲルといったその継承者を生み、特に認識論や倫理学において強い影響力をもちました。

そういった意味で、本書を読めばカントの哲学の概要だけではなく、18世紀以降の思想史上重要な論点をある程度押さえることができます。

カント哲学は大学入試でもしばしば取り上げられます。2017年一橋大学の国語でも登場しました。哲学というとどこか縁遠い分野にも思えますが、この本では難しいことをかみ砕いて説明していますからぜひ読んでみましょう。

11月期『哲学の使い方』鷲田清一

本書の著者である鷲田清一は言わずもがな現代の代表的な哲学者の一人です。

鷲田氏はフランス系の現象学に造詣が深く、また身体やファッションなど、さまざまなものを考察対象にする人物です。

大学入試頻出著者の一人で例年どこかの大学が氏の文章を使って入試問題を作成します。

本書はタイトル通り「哲学の使い方」を平易な言葉で説くものです。鷲田氏は哲学が現代日本において「役に立たないもの」と誤解されていることを憂いており、その誤解を解くべく哲学が本来社会に寄与するものであるという点を強調します。

そして、その社会に寄与する哲学を実践する形態として「哲学カフェ」を紹介します。「哲学カフェ」は大阪大学の臨床哲学研究室でも実践されている先端的な営みです。

※次回のリベラル通信は冬号です。

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