リベラル通信 2020年春号

2020年度 入試問題分析 慶應大学文学部「小論文」

今回は慶應大学文学部「小論文」の問題を見てみましょう。

問題はふたつの設問からなります。設問Ⅰでは多文化主義をテーマとする峯陽一氏の文章を要約し(300字以内)、設問Ⅱでは、文章を踏まえて「集団に属するということ」について自分の考えを述べることが求められています(320字以上400字以内)。出題される課題文の分量や出題形式は例年通りです。文学部の問題で多文化主義という政治哲学や社会学などに関わる文章が出題されたことに戸惑った受験生もいるかもしれません。ですが、慶應大学文学部には文学系のほかにも人間科学系や哲学系など複数の専攻が含まれていますから、課題文は幅広い分野の文章から出題されると考え、普段から多様なジャンルの本を読んで対策しておくのがよいでしょう。

課題文の内容を確認しましょう。筆者によれば、欧米諸国の多くは移民と定住者の関係を律するために多文化主義と呼ばれる政策原理を採用してきたが、それはイメージほど寛容なものではなく、その原理を体系化した政治学者ウィル・キムリッカは、移民とその子どもは受入社会に統合されるべきだと主張している。しかし、2001年の同時多発テロ事件以降、多文化主義は原理主義の温床としてバッシングされ、またそのパターナリスティックな側面が批判されてきた。これに対し、非西洋世界のなかに統合を求めない多文化主義、文化的な集団が互いを尊重して共存する「状態」としての多文化共生を想定できないかと筆者は述べ、その状態に近いものを描き出した構想として、結社の自由、脱退する自由、集団どうしの相互的な寛容という3つの原則からなる哲学者チャンドラン・クカサスの「リベラルな群島」というアイディアを紹介しています。以上の内容を中心にまとめれば要約になるでしょう。

受験生の多くは書くことが思いつかないと悩みますが、そのような人こそ「書く」ことではなく「読む」ことにじっくりと取り組むべきです。課題文を丁寧に読み、その文章の中心的なテーマをおさえれば、おのずと執筆の糸口が見えてくるはずです。今回の場合、多様な集団が互いを尊重して共存することは可能かという課題文のテーマを「集団に属する」という観点から深めればよいのです。集団の共存は属する集団を自ら選ぶ結社と脱退の自由によって可能になるのだろうか、そもそも自分が属する集団は自由に選べるものだろうかなど、掘り下げるべき疑問が浮かぶはずです。そのうえで、筆者の主張に対して肯定的な考えを述べるのであれば、東京の下町や東南アジアにおける「よそよそしい共存」、AUやASEANにおける大国と小国の共存、ビジネスの世界における分散的なシステムなどについての記述を参考に自分のアイディアを練ればよいのです。これに対し、筆者の主張に否定的な考えを述べるのであれば、筆者の議論にみられる矛盾や不明瞭な点を探しましょう。たとえば、筆者はリベラルな群島では「違いを認めて『共存』」することが求められる一方で、「基礎的な人倫の規範をすべての個人と集団が受け入れることを前提」とするとも述べています。ここには多様性の尊重と最低限の規範の共有という重要な問題が垣間見えます。この点を掘り下げればよいのです。たとえば、そのような規範は子どもや女性など集団の内部で抑圧されやすい人々の権利を保障するものでなければならないと論じることができるはずです。というのも、そのような規範が確立していない状態では脱退の自由が保障されても、抑圧されている人々の方が集団を去らなければならないという理不尽な事態が生じるからです。ほかにも、筆者は移民の統合を進める多文化主義が失敗したと述べていますが、むしろ、統合が不十分で、親世代の移民集団にも受入社会の集団にも属せない若者が原理主義に引き寄せられるのではないかなど、さまざまな論述が可能な問題です。皆さんも自分なりの解答を考えてみてください。

リベラル書籍紹介

中学生 使用書籍紹介

中3生 春期 …… 『壊れた脳 生存する知』山田規畝子

高次脳機能障害をご存じでしょうか。ケガや病気によって脳が損傷した結果、記憶力や注意力、空間把握能力などに影響が出ることで、日常生活や社会生活のさまざまな場面で支障が出るのが特徴です。筆者は本書執筆までに3回脳出血を起こしていますが、その経験をもとに書いています。

筆者は当初、医療の一線で活躍することをあきらめなければならないこと、思うように体が動かせないことなどにより多くの苦しみにさらされ、絶望しました。しかし、外科医としての自らの経験を活かし、何に対して不便を感じるのか、それを生かしてどのような点を克服すればよいのか、懸命に自分と向き合い、勉強を続けます。それだけではなく、復帰後には積極的に人と関わりながら、フォローしてもらうための手だてを少しずつ考えて、生活ができる方法を見出していきます。

人生には時に大きな困難と直面せざるを得ない時があります。そのような時に、自分とどう向き合えばよいのか。どう生きていけばよいのか。そういうことを考えさせてくれる本です。医療や福祉に関わりたい方にお薦めの一冊です。

高校生 使用書籍紹介

4月期 …… 『人間にとって健康とは何か』斎藤環

2020年度センター試験評論文では、レジリエンスについて述べられた文章が出題されました。レジリエンスは「復元力」「回復力」などと訳されますが、要するに「困難な状況などにうまく適応する能力」「しなやかな強さ」などのことです。

本書ではこのレジリエンスに焦点をあて、人間にとって「心の健康」を守ることの意義について述べています。心の健康を高めるにはどうするべきか、どうすれば幸福度が上昇するのか、組織においてレジリエンスをどのように生かしていくか、など多方面からレジリエンスを考えていきます。

現代社会に生きる私たちがストレスから完全に逃れることは簡単ではありません。しかし、レジリエンス、およびその概念と関連して「健康」とは何かを学ぶことで、人生をうまくコントロールするヒントをつかめるかもしれません。

新講座「東大リベラル」 いよいよ春期開講

最高水準に挑戦する講座が春期講習から始まります。その名は「東大リベラル」。東大志望者のみならず、課題に徹底的に向き合って考え抜きたい生徒にお薦めの講座です。高2生および高3生を対象とします。東大で出題された国語や小論文の問題をもとにします。基本的には書籍を一冊まるごと使って、みんなで考えていきます。本は事前に読んできてもらいます。

春期講習では東京大学法学部推薦入試でのディスカッション課題を扱います。

第一講

  1. 難民問題
  2. 人口問題

第二講

  1. イベントチケットの転売規制
  2. GPS端末による監視システム

前期・夏期で次の本を扱います(変更可能性あり)。

  • 4月期
    • 九鬼周造『「いき」の構造』
  • 5月期
    • 深沢七郎『楢山節考』
  • 6月期
    • 加藤周一『日本文化における時間と空間』
  • 7月期
    • 新渡戸稲造『武士道』
  • 夏期
    • 大江健三郎『「新しい人」の方へ』・幸田文『木』

以上 興味のある方はぜひチャレンジしてください。

お問い合わせ: 0120-3759-37 (日曜・祝日を除く14:00〜18:00) Webフォームで問い合わせる