リベラル通信 2019年冬号

「第5回全国論文コンテスト」応募ありがとうございました

この度はY-SAPIX主催全国論文コンテストにたくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。

厳正なる審査の結果、6名が入賞し、11月3日(日)に表彰式が執り行われました。また、入賞者の表彰の後に、課題書籍(『いのちを“つくって”もいいですか?—生命科学のジレンマを考える哲学講義—』)の著者である島薗進先生による講演、そして先生と受賞者との公開対話を行いました。

講演で島薗先生は、中国で生まれたゲノム編集を施した子どもの出産の話題について触れ、そこから遺伝子を改変するという科学技術についてどのように制御すべきか、その線引きをするにあたっての問題を指摘しました。まず、現代社会で生殖系列の細胞へゲノム編集を施すという行為には、技術的に問題が残ることに加えて遺伝子に改変を施した結果によって次の世代にどのような影響が及ぶか予測がつかない面がみられ、道徳的、倫理的に多くの検討の余地があることを最初に解説しました。そして、将来ゲノム編集が技術的な問題を解決して一般社会に普及するようになれば、国家の壁を越えた大幅な法的規制が行われる可能性があることを示唆しました。

講演の後半では、入賞者の論文の内容を踏まえて、生命科学における疑問・検討すべき点についての解説が行われました。それぞれの論文では「クローン作成」「遺伝子を操作して優秀な能力を得ること」「いのちに優劣をつけること」「限りある『いのち』への理解」など、生命倫理を考えるうえで重要な課題が多様な視点から提起されており、これらの問題に対して島薗先生は、発達し続ける生命科学の技術に対してどう向き合うべきかについて語りました。

続けて行われた公開対話でも、講演内容で取り上げられた受賞者の論文の内容を軸に、島薗先生と入賞者の間で活発な議論が繰り広げられました。また、生命科学の発達した世界で「宗教とどう関わっていくか」をテーマに議論が行われ、全体として大変有意義な時間となりました。

Y-SAPIX主催全国論文コンテストは、課題書籍を足掛かりとして、現代社会について皆様によく考えていただくことを目的としています。論文を書くためには、様々な書籍や資料に触れる必要がありますし、他者との議論を通して自身の意見を持つ必要があります。自身の意見をことばにするのも大変なことで、一朝一夕でできることではありませんが、問題と向き合い、考え抜く経験は中高生にとってかけがえのないものとなります。

次回のテーマおよび使用書籍が決まりましたら、HPや紙媒体でご案内いたします。まだ応募したことのない方の挑戦も大歓迎です。全国の中高生からの応募をお待ちしております。

リベラル読解論述研究 書籍紹介

中学生の使用書籍紹介

中3 …… 冬期『論語物語』下村湖人

本書籍のタイトルにある『論語』とは、古代中国の偉人である「孔子」の言葉や行いをまとめた書物です。しかし、この書物は孔子本人が書いたものではありません。孔子が亡くなったのちに、仕えていた多数の弟子が、孔子が生前に残した教えを長年かけてまとめあげた結果『論語』となったのです。

本書『論語物語』は、そのような『論語』の教えを、弟子と孔子たちの日常を描いた短編の物語に再構成したうえで、紹介しています。物語のなかで、弟子はしばしば過ちや失態を犯します。偉人の弟子といっても、その失敗の内容は私たちと似通っているところも多いです。たとえば先生の目を盗んで遅刻をごまかそうとしたり、普段お世話になっている人を自分勝手な都合で疑ってしまったりと、一度は私たちも経験しているようなことです。

物語の中で、そのような弟子の態度を孔子は見逃すことなく、すべて把握したうえで弟子に的確な説教を行います。そして弟子は、教訓を得て自らの行いや考えを改めた結果、立派な人間へと一歩ずつ近づいていく手ごたえを得ます。

『論語』は有名な古典として知られるため、最初は難しい、堅苦しいものであると思う人も多いと思います。しかし『論語物語』のように、わかりやすく読める形の書籍をよく読むと、現代に生きる私たちも共感できるものとなっていることがわかります。自分のこれからの人生に、孔子の教えがどのようにして生かせるのかも合わせて考えながら、読んでいきましょう。

高校生の使用書籍紹介

1・2月期『アートは資本主義の行方を予言する』山本豊津

この本の1ページ目には『空間概念、期待』という絵画の画像が掲載されています。あなたは、その絵を見てどのようなことを感じましたか。そして、どのような手法で描かれていると思いましたか。この絵画の詳細は本書69ページで解説されていますが、使用された技法を聞いて驚くことでしょう。

このように、目新しい作品に代表される芸術品は「現代アート」と呼ばれ、芸術家たちによって常に私たちの予想を上回る新しい表現技法が模索され、制作されています。しかし、現代アートはその物珍しさが先行して注目されることが多く、画廊と客によって取引される「商品」であることを忘れられがちな芸術品でもあります。

アートは常に社会において「社会の価値を転換する」という一定の役割を果たしてきました。過去をたどると、美術の潮流と歴史の変動も、しばしば重なり合うところがあります。それは戦後の日本社会も例外ではありませんでした。新たな現代アートの派閥が次々と築き上げられ、身近な「もの」たちの価値を再認識させる芸術品が次々に作り上げられました。一方、これらの事実から、歴史に名を残すような芸術品は、社会に出すことでどのような価値を示せるか、説明できる作品でなければならないという事実が見えてきます。本書では、画廊を経営する筆者の視点から、その点が鋭く指摘されています。また、現代アートを今の日本社会が、十分に価値のあるものとして見出しているか、その体制が整っているかどうか、という問題も筆者は合わせて提起しています。一見すると、離れているように思える「芸術」と「社会」のつながりを整理し、芸術鑑賞における新たな視点を身に着けることのできる一冊です。

新講座「東大リベラル」のお知らせ

東大入試の現国および小論文で出題された文章の書籍を中心に読み、書き、討論します。知識を増やし、教養を深める授業です。従来のリベラル読解論述研究よりさらに難度の高い講座です。高2・3生を対象にします。入試対策はもちろんのこと、入試の先まで見据えた、Y-SAPIXの送る新講座です。東大志望者のみならずその他の国公立、早慶をはじめとした有名私大、ならびに医学部への進学を希望する生徒にもお勧めです。

※次回のリベラル通信は2・3月号です。

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