リベラル通信 2019年新学期号
今年注目の出題(国語)
入試改革に力を入れている早稲田大学政治経済学部の出題を見てみましょう。
第一問現代文(評論)では堀田善衛「日本の知識人—民衆と知識人—」が出題されました。軍備撤廃論とそれに対する批判を取り上げ、日本の知識人の議論が両極端になりがちな理由について考察した文章です。文語文への抵抗を無くしておくことが必要ですが、内容としてはさほど難解ではありません。問3では四字熟語の知識が必要でした。問6は傍線部直前の「判断反省」に着目することがポイントです。主体が知識人であることに注意しましょう。問8は例年出題されている文学史問題ですが、今年は難度が高かったです。
第二問現代文(評論)では八木絵香「科学的根拠をめぐる苦悩—被害者当事者の語りから」(中村征樹『ポスト3・11の科学と政治』所収)が出題されました。JR福知山線脱線事故と福島第一原子力発電所事故の被害者が抱える精神的、社会的な問題について、被害者の立場に寄り添って述べた文章です。読解自体はさほど難解ではありませんが、設問がバラエティに富んでおり選択肢がややこしいため落ち着いて情報を整理する必要があるでしょう。問11は「可能性」という単語を手がかりにして判断します。問13の記述問題は、「必要は無い。」というしめくくりにすることに注意し、端的に書かねばなりません。
第三問は古文、上田秋成「藤簍冊子(つづらぶみ)」と、漢文、「銭神論」(『芸文類聚』所収)が出題されました。
古文は、弟の貧しい生活を心配した姉夫婦の支援をも拒む、郝(かく)の廉直な人物像が描かれた文章でした。漢文は、従来の道徳にこだわり貧乏な生活をする人物と、近年の拝金主義的な世相に適応した人物との問答からなる文章でした。問21では「あひなし」「さうざうし」「なめし」の語義に注目します。意味を選ぶ3問は例年通りの出題です。問26の「所以」は、ここでは「生き方」を意味します。問29は故事成語の問題です。日頃から漢文を意欲的に読んでおきましょう。
全体を分析した結果、現代文の本文量と設問数は昨年と同程度でした。第一問では本文中に文語体の文章が引用されており、読みづらさを感じたかもしれませんが慎重に読み進めれば正解に辿り着けます。第二問では例年通り記述問題が課されましたが、語句を指定の順番通りに用いるという細かな指示が加わりました。設問指示に従って解答を作成する力は、大学入学共通テスト試行調査でも求められていました。受験を控えた皆さんはこの出題形式に慣れていってください。
いずれも政治経済学部的な本文内容です。社会によく目を向けてこの方面の知識を蓄えましょう。
古文は近世の随筆からの出題で、本文量は昨年とほぼ同程度でした。メジャーな出典ではありますが、本文には近世特有の表現が散見され、注釈が十分に付されていないため、慣れていないと読みにくかったのではないでしょうか。人物関係を取り違えると失点につながる設問もあったものの、全体的な設問内容は、語句、文法、古文常識の標準的な学習で対応できるものでした。普段から多様な文章、文体に触れておきましょう。
漢文は昨年同様、事実上の独立問題でした。本文量は昨年よりやや増加、設問数は同じです。訓読法や故事成語は基礎知識で解答できますが、本文の読みにくさに加え、本文前段が省略されており、内容の把握を必要とする設問は難度が高いものでした。
政治経済学部は2021年度から一般入試を大幅に改革することで知られていますので、注目しておく必要があります。早稲田大学政治経済学部に限らず、各大学学部で改革が進んでいます。入試がどんどん変わっていきますので、それぞれの志望大学学部の研究をしっかりしておきましょう。
リベラル読解論述研究 書籍紹介
中学生の使用書籍紹介
- 中3生 …… 4月期『友だち地獄—「空気を読む」世代のサバイバル』土井隆義彰
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優しい人間関係。それは、誰も傷つけず、また傷つけられない関係であり、一見すると、とても平和で理想的なものです。しかしその関係は、絶えず空気を読み、周りから浮かないように気を遣わなければすぐに崩れてしまいます。そして、そんな危うい状況の続く毎日を生きづらいと感じている若者は、決して少なくはありません。彼らはなぜそのような優しい人間関係を保とうとするのでしょうか。
本書ではその答えを探るため、いじめやひきこもりなどの具体例や、生き方に悩む若者の書いたものを多数取り上げています。読んでいくと、時代の移り変わりとともに、若者が追い求めてきた「優しさ」の正体が見えてきます。本書をヒントに、「友だち」との関係について、振り返ってみましょう。
高校生の使用書籍紹介
- 4月期『日本人はなぜ存在するか』與那覇潤
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現代社会では、ビジネスをはじめとして、あらゆる場面でグローバル化が叫ばれています。それに伴って教養を身につけることの重要性が注目されています。そして筆者は、グローバル時代の教養を、どのような相手にも自分の考えていることを伝える能力であると述べています。
本書では、これまで私たちが「日本人だから」という観点で漠然と捉えてきた日本史や日本文化について、多様な観点から考え直します。一見すると堅苦しい内容のようですが、各章で映画や音楽、漫画やアニメなど多くの例が示されているため、具体的にイメージしながら読むことができます。
読んでいく中で、これまで知らなかった事実や、もっと知りたい情報があれば、その都度さらに調べてみてください。
- 5月期『AI vs.教科書が読めない子どもたち』新井紀子
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AI(人工知能)の進歩はめざましいものがあります。しかしながら文章の意味を理解したり、その趣旨を正しく読み取って柔軟に対応したりする能力はAIにはまだありません。よって、サービス業など臨機応変さを求められるような仕事は、そのような能力、すなわち読解力を持った人間にしかできない。そう考えられているところがあります。
はたして、本当にすべての人間がAIより優れた読解力を身につけているのだろうか?そう疑問に感じた筆者は、全国の中高生に読解力テストを受けてもらい、その結果を分析しました。すると、生徒の正解率は予想以上に低く、彼らは教科書の文章さえ正しく理解できていないことが判明したのです。
筆者は、人間の読解力の不足が今後のAIとの共存において、最悪の未来を招く恐れがあると警告しています。読解力を身につけなければそのような事態が起きてしまうのはなぜでしょうか。そして、読解力を高めることで私たちの未来はどのように変わっていくのか。本書を読んで、考えていきましょう。
「4技能」について
入試改革をめぐる動きが活発になってきました。いわゆる4技能という言葉を耳にしたことがあるでしょう。英語の入試改革の文脈で使われることの多いこの「4技能」ですが、英語に限ったものではありません。国語や社会その他の教科科目においても対話形式の出題が増えるなど、入試改革の影響があちこちで出てくるようになりました。
「読む」「書く」「聞く」「話す」はそれぞれが密接に絡み合っています。バランスよくこの4つの技能を高めていきましょう。
※次回のリベラル通信は6月号の予定です。