難しいテーマにも工夫しながら取り組んだ受賞者たち
中高生の読解力や表現力を育むことを目的とした「全国論文コンテスト」も4回目の開催となりました。指定書籍は、山崎史郎先生の『人口減少と社会保障—— 孤立と縮小を乗り越える』です。数百人の応募者から次の6名(うち1名欠席)が優秀賞、佳作を受賞しました。
優秀賞 | A・Yさん | |
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優秀賞 | S・Hさん | 社会問題が起こった原因を分析しながら、論理的に書くことを意識しました。 |
佳作 | I・Aさん | 難しいテーマでも背伸びせず、素直に受け入れて自分なりに解釈しました。 |
O・Mさん | 論文を書くことで日ごろから「社会問題」を感じられるようになりました。 | |
N・Rさん | 大きなテーマでしたが、身近な例に置き換えることで問題点がはっきりしました。 | |
N・Mさん | 書籍だけでなくほかのメディアの情報を交えて書くことで、より詳しく書けたと思います。 |
会場全体が温かい拍手に包まれた表彰式
Y-SAPIX・代ゼミグループの髙宮敏郎共同代表の開会の辞から授賞式は始まりました。「難しいテーマに正面から向き合っていただけました」と受賞者を讃えた後に、「これからの社会には2つの大きなテーマがあります。1つ目は技術の進化が早まっていることです。新しいテクノロジーがすぐに陳腐化する。だから学び続ける必要があります。2つ目はグローバリゼーションが進んでいることです。世界のどこにいてもつながれるようになりました。今日は山崎先生にリトアニアから参加していただきます。まさに両方を体感できるでしょう」と受賞者へメッセージを贈りました。
式はそのまま表彰式に移ります。受賞者が賞状を受け取ると、盛大な拍手が起こりました。
当事者意識をもって書かれた点が高評価のポイントに
選考委員長を務めた佐藤英介先生による講評では、「中高生は人口減少などの社会問題に直面していませんが、当事者意識をもって書かれた論文が評価されました。また『社会問題』という大きなテーマについて、広い視野をもちつつ具体例を挙げていたことも高評価の理由です」と述べました。
大切なのは「複眼的思考力」と「使命感」、そして「諦めないこと」
続いては、山崎史郎先生の講演です。リトアニアにいらっしゃる先生は、Skype通話での参加となりました。「論点をとらえたうえで、自分の意見が書かれた素晴らしい論文でした」と祝辞を述べた後に、3つのポイントに分けて受賞者へのメッセージを贈りました。「1つ目は『複眼的な思考力を身につけること﹄です。人口減少は単発的な問題ではなく、家族構成や雇用システムの変化などが原因になっています。1つの問題について、いろんな要素を含めて考える思考力を養ってください。
2つ目は『次世代への使命感をもつこと』です。人口減少の責任は皆様にはありません。1980~2000年代に起きた問題が、現在表面化しているのです。皆様が社会でとる行動は、まだ生まれていない子どもたちに影響します。次世代への使命感をもってください。
3つ目が最も重要で『諦めない気持ちをもつこと』です。人口減少を食い止めれば、高齢化も改善するといわれています。諦めずに問題に立ち向かうと、ほかの課題も解決できるのです。どうしても諦めざるを得ない場合は、次の世代に想いをつないでください。リトアニアは数世代にわたってソ連からの独立を目指し、1990年に達成しました。まずは自分で取り組み、どうしても無理だったら次につなぐ。すると必ず道がひらけます」。
日本の中枢で社会問題の解決に携わってきた山崎先生の言葉を、受賞者は真剣なまなざしで聴いていました。
あらゆる社会問題について議論が起こった座談会
その後、式は山崎先生と受賞者との座談会に移ります。はじめに、佳作を受賞したN・Mさんから「コンパクトシティを再編しやすい人数について、20万人未満が理想だと思うのですが、どのようにお考えでしょうか?」と質問がありました。先生は「確かに20〜30万人の都市を設けてコンパクトシティをつくるのは理想的です。でも住民からの反対があり、うまくいきませんでした。地域の方々が納得したうえで一緒に地域をつくることが重要ですが、日本ではその動きが生まれていません」と答えます。「地方自治は『民主主義の学校』といわれますが、日本ではうまくいっていないのですね」というN・Mさんの言葉に対して、「まちづくりには地域住民の財産や生活が関わるので、多数決だけでは決められません。地域の方を説得して少しずつ地域再編を進めることが、新しい地方自治の形です」と加えました。
続いてN・Rさんの質問です。「外国人労働者が増えるとともに不法滞在などの問題があらわれていますが、国外の労働者数は拡大すべきでしょうか」。先生は「さまざまな意見があります」と前置きしたうえで「働く人は必要ですが、外国人にはさまざまなバックグラウンドがある。日本の社会全体で多様性を認めることで、国外労働者と日本の両方によい影響が生まれます」と論を展開しました。
次に、O・Mさんの「北欧と比べて、どうして日本では女性が働きにくいのですか」という質問に対して先生は「日本では育児休業や保育所の問題などの制度が整っていません。北欧諸国も同じ状況でしたが、諦めずに取り組んだことで女性も働きやすくなりました。スケールが大きい問題なので少しずつしか進みませんが、諦めずに続けることが大切です」と講演のポイントを交えつつ答えました。
続けて、I・Aさんが「出生率の低下が人口減少の原因だと思います。制服代や学費などが出生率を下げているのではないでしょうか」と質問します。すると、「正しい意見です。今後、教育費を無償化する動きはあり得ます」と答えてから、「教育の問題は家庭環境にもあります。親が熱心に教育しないと子どもは勉強しなくなる。お金と人をサポートすることが教育問題の解決になります」と包括的な課題についても教えてくださいました。
最後に質問したのは、優秀賞のS・Hさんです。「人口減少や社会的孤立は『貧困』が原因だと思います。AIやロボット化により人の仕事が奪われて貧困化が進むのではないでしょうか」という問題提起に、先生は「時代が進むにつれ、新しい仕事が生まれます。例えば洗濯機ができたからといって洗濯する仕事がなくなったわけではない。AIを恐れることはありません。我々は人として何ができるのかを考えればよいのです」と力強く語りました。終盤では先生から「中高生だから気づいた新たな発見を教えてほしい」と尋ねる場面が見られるなど、最後まで活発な討論が続き、閉会となりました。