リベラル通信 2018年冬号

「大学入学共通テスト」平成30年度試行調査が行われました!

去る11月10・11日、「大学入学共通テスト」の平成30年度試行調査が行われました(大学入試センターのHPに問題・解答等が公表されています)。みなさんの中にも実際に受験したという方がいると思います。みなさんはどのように感じましたか。今回は、昨年度の試行調査と比較して、どのような変更がみられるかを分析していきます。

まずは「共通テスト」最大の特徴である、第1問の記述式問題を見ていきましょう。昨年度の試行調査では、生徒同士の会話文と3つの資料を踏まえ、設問の条件に従って解答を作成する問題でした。これに対して、今回は【文章Ⅰ・Ⅱ】という比較的短い2つの文章を読んだうえで、3問が出題されました。

問1は「○○とはどういうことか」という東大と同様の問い方で、【文章Ⅰ】のみを手がかりに解答を作成する問題でした。また、問2も【文章Ⅱ】に基づく図の空欄に当てはまる内容を記述するという、【文章Ⅱ】のみを根拠に解答できる問題でした。その意味で、この2問は昨年度第1問と比べて、従来の国語の記述式問題に近い設問になったと言うことができるでしょう。

一方で問3に関しては、採点者による評価のブレが目立った反省を踏まえ、解答の条件が非常に細かくなりました。これによって、どういった解答が正解となり、どういった解答が間違いとなるのかが明確になったということです。しっかりと解答のための条件を読み込み、それに従って確実に得点する力が必要です。

次に第2~5問から、全体の傾向をつかんでいきましょう。第2問は、「著作権についてまとめたポスター」、「著作権法本文の抜き書き」、「著作権について説明した文章」の3つを読んだうえで解く問題です。平成29年5月発表の「モデル問題例」において示された、契約書などの実用的な文章を用いた出題を彷彿させます。また第3問も、作者を同じくする詩とエッセイが提示され、全体を通して「詩的な表現」に関する設問が多くを占める問題でした。総じて、現代文の第1問が比較的従来の国語の形式に近づいた一方で、第2・3問は新傾向的要素が強く見られる出題となりました。

ところが、第4問古文・第5問漢文は一転して、従来のセンター試験に近い出題となりました。特徴的なのは、生徒たちや教師が本文について議論している対話文が提示され、そのうえで正解の選択肢を選ぶ形式の問題が設けられた点です。このタイプの設問は、しっかりと本文の内容をつかめる力があれば、難しくはありません。さらに、第4問古文に関しては、文法問題が廃されました。

また、今回の試行調査問題は昨年度に比べて文章が短くなり、設問数が若干増えたため、読解よりも各設問を解くことに時間がとられる印象です。いずれにしても、従来のセンター試験のように精確さとスピードの両立が求められることに変わりはないでしょう。

全体を俯(ふ)瞰(かん)すると、「共通テスト」の目玉である記述式問題と古文・漢文が従来の国語に近づいたのに対し、現代文に新傾向的要素が多く現れた試験となりました。第1問の記述式問題では、細かな条件から設問の意図をくみ取る力、第2・3問のマーク式現代文では、複数の資料や文章を組み合わせて正解を導き出す力が求められます。高1生以下のみなさんは「大学入学共通テスト入試プレ」などの受験を通して、これからの入試に必要な力を養っていきましょう。

リベラル読解論述研究 書籍紹介

中学生の使用書籍紹介

中3 …… 1月期『チェルノブイリの祈り』スベトラーナ・アレクシエービッチ

1986年、旧ソ連のチェルノブイリ地区で大規模な原子力事故が発生しました。

この書籍は、そんな事故を境に大きく人生を変えられた人々に著者がインタビューを行い、その発言をまとめたものです。インタビュー対象には、事故処理にあたった兵士の妻、発電所近くに危険を承知で住み続ける人々、避難した子どもたちなど多岐にわたっています。掲載された彼らの言葉からは、理不尽な運命に翻弄される苦しみと、まったく予想のつかない未来への不安が生々しく伝わってきます。彼らの発言を通して、社会を大きく揺るがす事故の重みを知り、学んでいきましょう。

高校生の使用書籍紹介

冬期『漱石文明論集』三好行雄編

夏目漱石は『吾輩は猫である』『坊っちゃん』などの作品で知られる、明治時代を代表する文豪です。この書籍は、評論や随想の形式で、漱石が文芸などの芸術や教育、日本社会についての講演や個人的な論など、多様な話題について語った記録をまとめたものです。

漱石の思想はおよそ100年前の時代背景を踏まえたものですが、その詳細を見ていくと、個性のあり方や社会の急激な変化と発展など、現代に生きる人々が抱える課題にも通じる点が多く見受けられます。漱石の考えのプロセスを丁寧に紐解きながら、これからの時代を生きるにあたり、どのような点が参考になるか考えながら読み進めることをおすすめしたい一冊です。

第4回全国論文コンテスト応募ありがとうございました!

この度はたくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。審査の結果、6名が入賞しました。11月17日に表彰式が執り行われ、受賞者は表彰式に出席しました。表彰の後に、課題書籍(『人口減少と社会保障 ―孤立と縮小を乗り越える』中公新書・2017年)の著者であり、現在大使としてリトアニアに滞在する山崎史郎先生とスカイプで対談しました。

受賞者のみなさんからはSNS、人工知能、教育費など多様な視点から質問や意見が出ました。

次代を担う中高生にこれから求められるものとして、山崎先生は次のものを挙げました。

  1. 複眼的思考力
  2. 使命感と責任感
  3. あきらめない気持ち

人口減少と社会保障に関する問題は、多様な視点から検討されるべきであり、数世代にまたがる問題であることを強く認識する必要があると山崎先生はおっしゃいました。さらに、絡み合った要因をよく分析すること、原因から結果が生じるまでには時間的なずれがあるため長いスパンで考えること、そのためには単発的ではなく継続的な取り組みが必要であることを強調されました。

そして、「未来は変わると信じて、他者と気持ちを共有し、思いをつなげていってほしい」とお話を締めくくりました。

Y-SAPIX主催の論文コンテストは今回で4回目を迎えました。これまで「学び」「暴力」「ポピュリズム」「社会保障と人口減少」をテーマに選びました。

このコンテストは、一冊の書籍を足掛かりとして現代社会についてみなさんによく考えていただくことを目的としています。論文を書くためには、様々な書籍や資料、他者との議論を通して自身の意見を持つ必要があります。自身の意見をことばにするのも大変なことで、一朝一夕でできることではありませんが、問題と向き合い、考え抜く経験は中高生のみなさんにとってかけがえのないものとなります。

次回のテーマおよび使用書籍が決まりましたら、HPや紙媒体でご案内いたします。まだ応募したことのない方の挑戦も大歓迎です。全国の中高生からの応募をお待ちしております。

※次回のリベラル通信は新学期号の予定です。

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