リベラル通信 2018年秋号

「言葉」への意識

友だちに「おはよう」と言われて、「おはよう」と返す。通勤・通学の電車にて、車内広告で新商品の情報について知る。私たちの日常には言葉があふれています。

日常の中で言葉の存在を強く意識するのはいつでしょうか? 大勢の聴衆の前でスピーチをするとき。意見文を限られた字数で書くとき。

私たちはお互いの意思を伝え、理解しあうために言葉を使います。つまり、言葉を上手く使えるほど、人や物事を正しく理解できるのです。言葉を学ぶことを通して、皆さんが社会で誰かと一緒に生きていく力をつけていると言ってもよいでしょう。

2020年からの大学入試改革で、センター試験に代わって始まる大学入学共通テスト(新テスト)では、このような「社会で生きていく力」をより実践的に問われます。大学入試センターがプレテストとして実施した模試の記述問題にはどのような問題が出題されたのでしょうか。それは、駐車場の契約書に書かれた内容から課題を解決するための情報を正確に読み取ることが求められる問題でした。

つまり、新テストでは実生活で起こる出来事について、日常の言葉で正しく理解し、表現できるかどうかを問われているのです。具体的な対策として書籍や新聞の内容を正確に理解した上で、求められている情報や意見を、発語や文字で表現する練習が有効です。

社会で生きていくために、自分の意思を伝え、理解しあうために言葉を使う。では、肝心の「自分の意思」はどうやって形作ればよいのでしょうか? お腹が空いたとか、これは嫌いだとか、動物的な感覚や感情はわざわざ作らなくても頭に浮かんできますね。しかし、もっと複雑なことがたくさんあることを皆さんも実感していると思います。高度な思考を行うためには、より洗練された厳密な言葉の運用能力が重要なのです。

例えば、相手の考えていることや、様々な出来事について、私たちは思考力を使って整理していかなくてはなりません。「なんかムカつく」「訳わかんない」で思考を停止していてはいけません。漠然としているものをひとつずつ言葉によって整理することで、絡み合った問題は紐解け、自分の意思が浮かびあがってきます。

つまり、言葉は抽象的なものを整理するときにも役立つのです。そして、この「抽象的な物事について高度に思考する力」も、これから皆さんによりいっそう求められるものなのです。しかも、入試問題が問うてくるのは、先の例のような日常の世界での思考力ではなく、それを飛び越えた世界での思考力です。具体的に問題を見てみましょう。

早稲田大学政治経済学部は、2021年度より一般入試について、前述した新テストに加えて英語外部検定試験、学部独自試験(日英両言語による長文)を課すことを発表しました。

この学部独自試験のサンプルでは、政治哲学者であるジョン・ロールズの論と、法哲学者であるロナルド・ドォーキンの論を用いながら、「不遇な人々に対してどのように向き合うことが道徳的に正しいのか」という問いを考えるという文章が出題されました。

ロールズが主に依拠する社会契約論とは、異質な他者同士のなかでお互いに敵対して生きる自然状態から、どのような契約に基づき社会は成立したのかをめぐる国家の起源を探る哲学的考察のことをいいます。社会契約を巡る議論は、ホッブズの『リヴァイアサン』から始まり、ルソー等を経て、現代にまで至る知的な営みの系譜があります。そうした思想の厚みのあるテーマは、厳密な言葉の定義によって論を展開するため日常的な言葉からはかけ離れた硬質な文体で、抽象的な内容になります。そのような課題文を理解し、課題に対する答えを表現しなくてはならないのです。このように、これからの大学入試では「日常の言葉で思考する力」に加えて、日常を飛び越えた言葉の世界で、「抽象的な物事について高度に思考する力」を問われると言えるでしょう。

リベラル読解論述研究では、小説など皆さんの日常でなじみのあるものだけでなく、このような抽象的な文章も扱います。まずはひとりで書籍を読み、授業では教師と一緒に内容をしっかり噛み砕きます。内容を理解した上で行う生徒同士の討論では、自分の意思も、相手の意思もより明確になり、お互いの考えを深く理解をすることができます。意見を小論文課題として求められる形で書き、教師からの添削を受けます。

この一連の流れを通して、言葉を能動的に使って深く思考し、それを表現する練習をすることができるのです。授業中、そしてもちろん日常において、豊かな思考力と表現力で自分の意思を相手に伝え、それが理解される喜びを全身で感じてほしいと思います。

日常にあふれる言葉に少し意識を向けてみてください。皆さんはそこにある言葉を、どんなふうに使っているでしょうか。

リベラル書籍紹介

中学生 使用書籍紹介

中2 10月期 …… 『競争社会の歩き方』大竹文雄

「競争」という言葉には、どんなイメージがありますか。日本の現代社会では、人を出し抜くものとして、否定的な言葉と共に捉えられることも多いようです。しかし、互いをつぶし合わない適度な競争は経済活動には欠かせないものであり、社会の活性化につながるものです。それは、競争というものが、絶えず他の存在を意識する仕組みで成り立っており、結果として人々が切磋琢磨する材料を与えているからです。では、私たちが現代の競争社会で、そんな競争の恩恵を受けながら生きるには、どんなところに注目していくべきでしょうか? この本を読めば、そのヒントが見えてきます。

中3 11月期 …… 『砂糖の世界史』川北稔

中世以降、ヨーロッパでは多様な用途で砂糖が普及するようになりました。では、それはどこで作られ、どうやって輸入されてきたものだったでしょう。

この本では、現代に暮らす私たちにも身近である「砂糖」が世界に広まる歴史をたどりながら、そこに関連する経済活動や社会の変化の様子を紹介していきます。世界中に広く普及し、人々を魅了する砂糖。その普及が進むにつれ、やがて人類の貿易の歴史のみならず文化の面でも、いくつもの重要な変化が起こりはじめます。幅広い視野を持ちながら、わかりやすく中世以降の世界史を知るためにも、おすすめの一冊です。

高校生 使用書籍紹介

11月期 …… 『海と毒薬』遠藤周作

あなたは、もし自分が罪を犯す立場になったら、と想像したことはありますか。考えたこともない、残酷な犯罪は自分には無縁だ。そう思っている人も多いでしょう。

この小説は、戦争末期にある病院で起きた捕虜の生体解剖事件をめぐって、登場人物がなぜその事件に関与したか、その経緯が丁寧に綴られていきます。また、事件に関わる前後の彼らの内面の心理も、具体的なエピソードを通して深く掘り下げて描写されています。この物語を読んで、あなたは、自分には解剖に携わった登場人物の気持ちは全くわからないと、断言することはできるでしょうか。読み終えた後に、自分に問いかけてみてください。

※第4回全国論文コンテストの応募は締め切りました。ご応募ありがとうございました。
これから応募作品を一つひとつ丁寧に読ませていただきます。最優秀賞などの結果は、ホームページその他広報物にて発表します。

※次回は冬号の予定です。

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