リベラル読解論述研究
講師解答例

梅田望夫/飯吉透『ウェブで学ぶ—オープンエデュケーションと知の革命』

梅田望夫/飯吉透『ウェブで学ぶ—オープンエデュケーションと知の革命』について

高1リベラル読解論述研究では、梅田望夫/飯吉透『ウェブで学ぶ—オープンエデュケーションと知の革命』(筑摩書房)を扱いました。

現在は社会構造が複雑化・流動化し、技術や知識の陳腐化も激しく、過去の経験や知識の蓄積だけでは対応できない問題が生じやすくなりました。そのため個人は学び続けることで常に最新のスキルを身につけ、時代の変化に適応して行動する必要がある、と筆者は述べています。

こうして個人が一生学び続ける時代に、ウェブは「私たちが人生を切り開いていくための強力な道具」、「人生の増幅器」(16ページ)たり得るとして、

①「『ウェブで学ぶ』可能性」
②「『志向性の共同体』の可能性」
③「『職を得る、生計を立てる』道筋へと繋がる可能性」

を挙げています。21世紀のオープンエデュケーションの特徴として次のことが挙げられます。

利点
  • 物理的な場所に足を運ばず、世界中の様々な人々の知識を知ることができる。
  • 意欲があれば「学ぶ者」にも「教える者」にも自由になることができる。
  • 素晴らしい教育者の存在を知らしめ、誰でも彼らから学ぶことが可能となる。
  • 経済格差、地域格差などにかかわらず、平等に教育の機会を得ることができる。
欠点
  • 母語ではない言語のコンテンツを学ぶことができない。
  • 学びたいという強い意志を自ら持っていないと活用することができない。
  • 特に発展途上国において、ウェブを利用するためのインフラが整備されていない。
  • 教材や教育ツールは無料でも、効果的に使いこなすためのノウハウが乏しい。

オープンエデュケーションは学習者の主体性を尊重して自由な学びの場を与えるものですから、積極的に学ぼうとする「自助力」と、それを満たそうという「互助力」を必要とします。そのどちらかが欠ければもう片方もそれに比例して減少してしまいます。オープンエデュケーションに限らず、教育者の熱意と学習者の意欲がシンクロすることで、教育の質を効率的に高めることができると言えます。

筆者が「重要なのは、ただ勉強しているとか、ただ考えているとかではなくて、何でもいいから実践的なプロジェクトに関わって、人とつながっていくことなのだ」(209ページ)と述べているのはこうした理由からなのです。

以上の内容を踏まえて、今後、教育以外の何らかの分野をウェブによって「オープン」にしていく取り組みを考え、インターネットの未来について意見を出し合いました。講師解答例は次のとおりです。

講師解答例

ウェブとは、ワールド・ワイド・ウェブのことであり、その名の通り、世界中の人々と情報を交換したり共有したりすることのできるシステムであるから、これを利用するときに最も適しているのは、ローカル文化をグローバルに普及させたいという動機に裏付けられた活動である。そこで私は、文化的著作物の無料配信という取り組みを提案したい。

現在、著作物には「著作権」が認められ、その排他的使用と、それによって得られる利益が保護される、というのが常識となっており、これを無視するのは「遅れた国」と見なされる。もちろん、個人の才能や努力の結晶である著作物に権利を認めて保護することは、創作活動の自由を認めつつ、作家の生活を保障することにもなり、意義のあることである。だが、「保護」の側面があまりにも強化されすぎると、著作物のもつ可能性を狭めてしまうことにもなりかねない。

たとえば、小説の著作権は、日本では作者の死後50年、米国では70年保護されており、これをさらに延長しようとする動きもある。しかし、それだけの年数で「クローズ」された著作物は、有名な作品を除いて、ほとんど作家の母国だけで享受され、その上、貧困層には行き渡らないことが多い。それだけでなく、著作権フリーになった時にはすでに「時代遅れ」の遺物になってしまっている可能性も高い。

私はこれを、文化の持ち腐れだと捉えている。今は亡き父母や祖父母の著した作品が生み出す利益を子や孫たちが受け取るのは当然だと考えられているが、それは一面では、著作物の受難であり、不幸だ。著作物にも、世界中の人に読まれるチャンスを与えるべきではないか。

ここに、ウェブが登場する。今述べたような考えに賛同する作家や作家の遺族が著作権を放棄し、ウェブ上で著作物をオープンにする。むろん、それを統括・運営する非営利の組織や各国語に翻訳するボランティア・スタッフは必要だし、求める作品に導いてくれる「コンシェルジュ」も置かなければならない。しかし、これが実現されれば、世界中の隠れた名作が発掘されたり、読んだことのない国の作品に触れられたり、異国の現実を物語の悦楽とともに吸収したりすることができるのだ。

今、日本は「クール・ジャパン」プロジェクトに取り組んでいるが、それはあくまで<商品>としてのマンガやアニメであって、日本のもつローカル文化をグローバライズするという意識は乏しい。私は、真に「クール・ジャパン」を広めるにはマンガやアニメをウェブでオープンにしてしまえばよいと考えている。世界中にマンガの読み手やアニメファンが増殖すれば、やがてはそこから新たなクリエーターが生まれるであろう。そういう「文化的遺伝子」の伝承と、それによる「文化的子孫繁栄」にこそ、ウェブは威力を発揮するはずである。

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