
指定図書:鷲田清一
『「待つ」ということ』
「リベラル読解研究ゼミ」受講生が読んで、討論して、書き上げた文章を以下に掲載します。
ここに載せたのは、ひとにぎりの答案のみですが、精確な読解力・表現力・独創性の点において高い評価を受けたものです。
この本では、「〈意味〉を超えた場所」について述べられています。待っているものが「キイヒンノトチャウカ」(鷲田氏)という疑いを持たなくなるとき、未来が「開け」る。「ゴドーを待ちながら」の引用も興味深いものがあります。
優秀答案一覧
・「待っているものが来なかったら」(M・Iくん)
・「いつまで待てばいいのか」(R・Iくん)
※答案タイトルは事務局作成
待っているものが来なかったら
不条理(どうしようもできない設定)、又はアポリアを抱えたとき、人間に何ができるか。一つは、待つことである。もちろんその来るものもあるかわからない。むしろ、「ない」ものもあるかのように待つ。もう一つはその現実から消えることでこれは言うまでもなく、一人の人間の死である。そしてもう一つは、この不条理な実態の中で、自分が「待つ」身から「待たせる」身に変わることだ。
<意味>を超えた場所に出る。これは「待つ」ということの後がわかった上での発言である。つまり待った結果、望んでいるものが来た、それによって待った者には少なくとも思い通りに物事が進んだという自己満足に精神を落ち着かせることができる。
それでは待っているものがもし来ることがなかったらどうなるのだろうか。待ち望んだものが来なかった人に対して私たちはねぎらいの意を込めて軽く肩にポンッと手を触れて「残念だったな。」と言ってすべてが終わってしまうのであろうか。いや、そうではない。この<意味>を超えた場所に出ることができるのは「待っているものが来ることがなかった人間」にのみ与えられるものだと私は思っている。
待っているものが来た、という人は待っているときの未来の理想図の延長にしか生きていない。その一連の出来事を達観することはできない。逆に待っているものが来なかった人は、待ったものが来た人が得たものを手に入れると同時に、待ったものが来なかった人特有の「意味」を超えた場所、達観できる境地に進むことができる。それは、待つ者に対して、ワンステップ上に進んだ立場でものごとを見ることができるようになる場所である。
(M・Iくん)
いつまで待てばいいのか
意のままにならないもの。それはこの世にたくさんあふれていると思う。金銭的に無理だったり、距離や時間もその一つだと思う。そんな時、自分は、「もし〜だったらいいなあ」とよく英語の仮定法の授業で出てくるようなフレーズを考えてしまう。
自分には、よく金銭的、時間的に縛られる。昆虫採集にいく時間が無かったり、専門道具を買うお金が無かったり(かなり高価)、その時に、「ああ、もし時間(またはお金)があったらいいな」と思ってしまう。そして悔しさやみじめさが心の底から込み上げてくる。どうして、こんなに時間がないんだろう、とぶつぶつ口にしながら、イライラしたり、ふてくされたりする場合もある。しかし、時間(またはお金)が無いのは、自分がやれる時にやらなかったのが原因だと考えている。自分だけではどうしようもないものは、それこそ「待つ」しかない。だが、ここで一つ疑問が浮かんでくる。それは、いつまで待てばいいのだろう、ということだ。
<意味>を超えた場所に出る、というのは、本当に努力した人でなければ無理だと思った。一年間一日も欠かさず張り込みをした刑事は、本当に事件を解決したいと思ったから、「待つ」ことが出来たのだと思う。ここで言う、意味を超えるというのは、待つということから離れることだと思う。
例えば、犯行少年の更生を待っている人がいるとする。もちろん、犯行少年が更生をするのには、数年はかかる。ここで待つということから離れるというのは、いつ、どの時点で更生するのか、と待つことではなく、毎日毎日、更生の努力をして、更生をした時に初めて、どのくらいの時間がたっていたのかに気付くことである。これは授業で少し出てきた、夏目漱石の「夢十夜」第一夜の話につながると思う。この話も死んだ女性が百年後に男のもとに会いにくるというのを男が信じて、毎日を過ごした。そして、男が、「来ないのではないか」と思ったちょうどその時に、一輪の花が男の前に咲く。その時、初めて、男は、百年が経っていたことに気付いた。
結果が出てから、はじめてどのくらい待ったか気付く。自分が前に書いた、「いつまで待てばいいのだろう」ということは、間違っているのかもしれない。それは、自分が本当にそのことに努力していないのかもしれない。つまり、自分は待っている、と意識することは、自分は努力していない、ということを誇示しているのだと考える。
(R・Iくん)









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