国語 概評
合格アドバイス〈現代文〉
2011年度東大(前期)の現代文の問題は、けっして「難問」ではなかった。文科理科共通の第一問は、きわめてオーソドックスな評論文であり、論理展開や表現にもとりたてて難解な箇所はない。
内容的には「人間にとっての風景の意味」が論じられており、「河川」という具体的な手がかりもあったので、本文の読解にはさほど手間取ることはなかっただろう。
だが、標準的な文章を用いながら、読解力と表現力の差が確実に点数となって現れるのが東大現代文の特徴である。本問においては、そのポイントは二つあったと思われる。
「対比表現」の読みとり
まず第一は「対比表現」の読みとりである。
本文では「身体空間」と「概念空間」という二つの空間の差異が述べられている。身体空間とは「身体で感じとる空間」であり、そこには個別性、豊かさ、多様性が存在している。
それに対して概念空間とは、「人間が頭で作り上げた空間」である。そこには自然に存在しているはずの多様性や豊かさ、個性が失われ、人間が意識的、作為的に作り上げた「貧しい」空間しか存在しない。
本文を貫く、この対比を正確に読みとり、解答に反映させることができたか否かが、記述答案の出来を左右したと思われる。
120字の記述問題
二つ目のポイントは120字の記述問題の処理である。
まずこの字数を使って、こなれた表現で明快な文章を書くことができるか、次にその記述解に本文全体の論旨が的確に反映されているか、この二点をクリアしなければ、合格はおぼつかない。
読解と表現を有機的につなぐこと、東大は受験生にその能力を求めているのである。
文科のみに課せられる第四問の文章は、なかなか興味深い内容だった。そこでは「無鉄砲」ということばが繰り返し用いられている。
これは今日では「無謀さ」を意味しているが、アイヌの長老はこの語を文字通り鉄砲をもたずに熊狩りに出かける際に用いている。それは単なる「無謀」な行為ではなく、神の化身である熊と裸で向き合うという、ある意味では繊細で精神性の高い態度を意味するのである。
ここでも対比されているのは、「近代以前の伝統的・精神的な世界」と「近代以降の個人中心の世界」である。
問題を解く際には、自然との贈与と返礼を重んじるアイヌ特有の精神世界をいかに的確に言語化するかが重要である。
本文の対比表現と論理構造を正確に読みとり、それを的確に記述解に反映させること。本年の東大現代文で合否を分けた大きなポイントは、そこにあったといえるだろう。
SAPIX YOZEMI GROUP「2011 summer東大合格プロジェクト」より転載
次回は、『2011年度(前期)国語概評〈古文・漢文〉』を掲載予定です。